読書小日記


 私はそもそも読書家ではありませんでした。著名な作品もほとんど読んでおらず、作家の名前もあまり知らないまま30代に突入し、ふと気が付くと常識のない社会人になっていました。読書での知識や感性は、何気なく会話や文章に現れるもので、人間的に余裕がほしかったというか、深みがほしかったというか、そんな打算的な気持ちで読書を始めたのは事実です。読み始めてみると、純粋に文章や物語に魅せられ、今では生きる楽しみのひとつになっているから不思議です。
 でも、月に何冊も読んでいるわけではなく、昼休みを中心に時間のある時だけ読んでいるので、1冊読むのにすごく時間がかかります。しかも、頭の中で声を出している感じで、読むスピードもとても遅い。それでもあせらずに、マイペースで読み続けています。
 ホームページでの掲載を意識した本選びが懸念されたため、ずっとこのコーナー開設を控えていましたが、最近のネタ不足と、私がそうであるように他人の薦める本を読みたい人もいるかなあという思いから始めてみました。
 みなさんの読書の何かの参考になりますように。また、みなさんのお勧めの一冊がありましたら、ぜひご紹介ください。



目次
邂逅の森大地の子蜩ノ記八日目の蝉対岸の彼女プリズンホテル 1夏・2秋壬生義士伝沙高樓綺譚一刀斎夢録出口のない海半落ち父からの手紙永遠の0天地明察1Q84ゴールデンスランバー向日葵の咲かない夏告白シャドウヴィヨンの妻シェエラザードきりぎりす夜会服橋ものがたり邪魔龍を見た男サウスバウンド火車容疑者Xの献身重力ピエロ手紙カラマーゾフの兄弟なぜ、改革は必ず失敗するのか華麗なる一族犯人に告ぐ流星ワゴン親の品格事件砂の女海と毒薬虎を鎖でつなげ落日燃ゆ博士の愛した数式朗読者海辺のカフカ美しい国へ生きかた上手ワイルド・ソウルたまゆら東京タワー(オカンとボクと、時々、オトン)八甲田山死の彷徨功名が辻うちの母ちゃん、手が無っちゃが!続・氷点氷点



2015年
邂逅の森 /2004年日本
著者熊谷達也
評価★★★★★★★★★☆
感想 獣と真剣勝負をして生きるマタギの物語。いやあ、面白かった。自分の全く知らない世界を情景豊かに描いたこの本は不思議な感動を与えてくれました。これもお勧め。

2015年
大地の子 /1991年日本
著者山崎豊子
評価★★★★★★★★★☆
感想 追悼の気持ちでチョイス。随分前にNHKドラマとして放映されていたのが面白そうだったのでずっと読みたかった作品。文庫本で4冊でしたが、とにかくすごい作品でした。「残留孤児」や「文化大革命」の勉強にもいい教材です。

2015年
蜩ノ記 /2011年日本
著者葉室麟
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想 「日本人の心をふるわす」とか「感涙」とか書いてあったので。壬生義士伝ほどの強烈さがなく、淡々とした描き方に若干の物足りなさを感じた次第です。これくらいの内容であれば映画でうまく描けたかもしれません。

2015年
八日目の蝉 /2007年日本
著者角田光代
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想 続けて読んだということは気になったということ。逃げ切れるはずがないという少し冷めた感覚で読んでいましたが、映画化されるだけあって、ただの逃走劇ではなく楽しめました。結末が小説と映画で異なるとか。

2015年
対岸の彼女 /2004年日本
著者角田光代
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 女性作家の作品が読みたくなって何故かこれ。現在と過去の対比に多少困惑しながら読み進みましたが、読み終えてみると何とも言えない味わいが。女性ならではの感覚が私には新鮮な一本でした。

2014年
プリズンホテル 1夏・2秋 /1993年・1994年日本
著者浅田次郎
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想 続けて浅田次郎。歴史もの以外も読んでみたくなって選びましたが、ちょっと物足りなさを感じて★6つ。ちょっといい話ではあるのですが、よくある展開というか。軽く読めるので旅のお伴とかにお勧めかも。

2014年
壬生義士伝 /2000年日本
著者浅田次郎
評価★★★★★★★★★★
感想 いやあ、またまたやられました。この本を読んだ直後、思わずフェイスブックに以下のとおり投稿してしまいました。「この本、もう何というか、一言でいうと美しい!武士の心意気を貫いた新選組志士の物語ですが、親子、夫婦、親友など様々な関係における究極の形にただただ言葉を失いました。」日本人、必読の書です。

2014年
沙高樓綺譚 /2005年日本
著者浅田次郎
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想 旅のお伴に空港で購入。短編はあまり好みではありませんが、旅の合間に読むにはいいかなと。設定アイデアがさすがで、1話目が特に秀逸。私がちょっと苦手なオカルト的?霊的?な描写を浅田次郎はちょくちょく盛り込んでくるのですが、それもかえって新鮮です。

2014年
一刀斎夢録 /2011年日本
著者浅田次郎
評価★★★★★★★★★☆
感想 いやあ、やられました。司馬遼太郎好きの私が、一気に浅田次郎のファンに。深い。これは深い。新選組の斉藤一が語るという設定で、人間の本質を描けるだけ描いたという感じの渾身の1冊。しばらくは浅田次郎を読みます。

2013年10月
出口のない海 /2004年日本
著者横山秀夫
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想 「半落ち」の文章が好みだったのでもう1冊。「永遠の0」っぽさも期待したところ、半分くらいは青春テイストにちょっと拍子抜け。後半の緊張感が増す場面はありましたが、想像と異なるという違和感が最後まで邪魔し、この評価。

2013年9月
半落ち /2002年日本
著者横山秀夫
評価★★★★★★★★★☆
感想 少し前の寺尾聡主演の映画が面白そうだった記憶があったため購入。いやぁ、やられました。この構成アイデアが素晴らしい。ひとつひとつの章が良くできていて、それだけで短編小説として成り立つかのよう。結末は少し弱い感じがしますが、そこまでの展開でもうお腹いっぱいの1冊です。

2013年8月
父からの手紙 /2003年日本
著者小杉健治
評価★★★★★☆☆☆☆☆
感想 本屋で手に取り、面白そうだったので購入。期待が大きすぎたせいか、ストーリーが私としてはしっくりこずにこの評価。父親の愛がデーマなのですが、この方法がベストの愛の形だったのかと問わずにはいられません。

2013年7月
永遠の0 /2006年日本
著者百田尚樹
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 本作の映画化や「海賊とよばれた男」で何かと話題の作家。確かに面白い作品でしたが、最後の部分以外はドキュメンタリーとして読んでしまって、小説としての☆は7つに留まりました。零戦の勉強に最適の一冊。

2013年6月
天地明察 /2009年日本
著者冲方丁
評価★★★★★★★★★☆
感想 この本の爽やかさ、心地よさ。うーん、最高の1冊でした。ロマンがたっぷり詰まっていて、主人公と登場人物のエピソードもどれも魅力的。江戸時代にとてつもなく気の遠くなるような研究に打ち込んだ男の物語。

2013年5月
1Q84 /2009-2010年日本
著者村上春樹
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想 どうもこのデヴィッド・リンチのような世界観は苦手なのかもしれません。それなりに面白く読み進むのですが、スッキリ感が味わえない。それがわかっていても読みたくはなる。これが村上春樹のすごさなのか。

2011年8月
ゴールデンスランバー /2007年日本
著者伊坂幸太郎
評価★★★★★★★★☆☆
感想 本屋大賞受賞作品。大好きなビートルズのアルバムがモチーフ。「巨大な陰謀に追い詰められた男」とのコピーほどシリアスでない作風が心地よく、一気に読みました。こんなラストかとがっかりしかけたところで、最後の数ページに爽やかな感動を覚えました。

2010年8月
向日葵の咲かない夏 /2005年日本
著者道尾秀介
評価★★★★★☆☆☆☆☆
感想 うーん、この手は苦手。非現実的な設定もここまでくると真面目には読めなくなります。どこまで書いていいのやら、奇想天外なストーリーをお求めの方にはお勧めかも。こんな小説読んだことがありません。私が許せるのは「砂の女」くらいまでです。

2010年4月
告白 /2008年日本
著者湊かなえ
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 一気に読み終えるることや、眠くならないことが面白い本の尺度であればこの本は満点なのかもしれませんが、後味や内容の好みから星7つとしました。そんなバカなという登場人物たちのキャラクターにも口を差し挟む暇もなくのめり込みました。昨年度の本屋大賞受賞作品。でもこんな作品ばっかり読んでいたらおかしくなりそうです。

2010年4月
シャドウ /2006年日本
著者道尾秀介
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 読み始めは精神世界の本かと思って、少し構えてしまいましたが、精神科医を取り巻くお話だっただけで、おもしろさから一気に読み終えました。どんでん返しなどの工夫や展開が多少強引な気もしますが、ミステリーとしては秀逸でした。小学生の言動がしっかりしすぎてることに違和感を感じましたが、東京の小学生はあんなものなのでしょうか。

2010年1月
ヴィヨンの妻 /1946〜1948年日本
著者太宰治
評価★★★★★☆☆☆☆☆
感想 再び太宰。感覚が短く新鮮味に欠けたのか、少し低めの評価。「きりぎりす」は読みようによっては楽しい作品でしたが、この本に収録されている短編にはちょっと疲れました。次がどんどん読みたくなるといった本ではなかったというのが正直な感想。仕事が忙しくて疲れている時期に読んだからだという気もしますが。

2010年1月
シェエラザード /1992年日本
著者浅田次郎
評価★★★★★★★★☆☆
感想 ロマンを感じずにはいられない、良質のエンターテイメントでした。現在と過去、日本とシンガポール、飽きさせない展開に巧みな構成も手伝って一気に読み切りました。第二次世界大戦中に沈没した船を引き揚げようとする男たちの物語。その船にまつわる人々のエピソードがそれぞれに感慨深いものでした。

2010年1月
きりぎりす /1937〜1942年日本
著者太宰治
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 久しぶりの太宰。三島由紀夫を読むと読みたくなるのは私の中でのカテゴリーが同じだからでしょうか。短編だからという理由で避けていた太宰はやはりすごい。ひとつひとつはさほど有名ではないのでしょうが、選ばれた言葉を巧みに組み合わせてできあがった文章のひとつひとつが何と絶妙なことか。思わず唸らずにいられない、そんな短編集です。

2009年12月
夜会服 /1967年日本
著者三島由紀夫
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 三島作品の中でも超マイナーなもののようです。解説に「エンターテインメント」とありましたが、まさに昼ドラのような展開。内容そのものは特筆すべきものでもないのですが、文のひとつひとつが面白く、言い回しや言葉の使い方にいちいち感心させられました。どちらかというとストーリーで楽しませる現代文学も好きなのですが、魂の込められた文章を読むのも大変刺激になります。

2009年11月
橋ものがたり /1983年日本
著者藤沢周平
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想 先に読んだ「龍を見た男」がおもしろかったので、もう1冊。橋をテーマにした短編集ですが、テーマが統一されているだけに変化に乏しく、最後は少し飽きてきました。それでも終始一貫した温かみが感じられ優しい気持ちになれるのは、藤沢作品ならではです。

2009年11月
邪魔 /2001年日本
著者奥田英朗
評価★★★★★☆☆☆☆☆
感想 最初はそれなりにおもしろかったのですが、途中から登場人物がどんどん不快になっていき、理解不能な心理状況に変貌していったので楽しむことができませんでした。最も驚いた展開もあまり深まることもなく、読み終えても「うーん」と首をかしげるばかりでした。

2009年10月
龍を見た男 /1983年日本
著者藤沢周平
評価★★★★★★★★☆☆
感想 「たそがれ清兵衛」などが映画化され気になっていましたが、著名人この著者が好きだと言っているのを何度か聞いたので読んでみました。解説の中でヒューマニズムというキーワードが多く出てくるように、江戸時代の日常がおもしろく、切なく描かれていてとても感銘を受けました。情景や人物の描写が実に巧みです。短編自体も敬遠していましたが、これからもっと読んでみようと思います。

2009年9月
サウスバウンド /2005年日本
著者奥田英朗
評価★★★★★★★★☆☆
感想 青春ものはあまり好きじゃないのですが、主人公の少年にとても共感でき、極端な内容ながらもハマってしまいました。難しい言葉を使った文学的な要素はあまりないものの、現代的で面白い表現がちりばめられていて、それがまた絶妙で気持ちいい。こんなに楽しく読めた本も久しぶり。元過激派で変わり者の父に困らされながらも最後には理解者となっていく爽やかな物語。小学6年生が主人公なので子供たちに勧めてみます。

2009年8月
火車 /1992年日本
著者宮部みゆき
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 この小説はカード破産に関する社会的警告を含むため、その背景的な描写が多く、小説としてのテンポを犠牲にしていることが残念に感じられましたが、残り4分の1あたりからミステリーとしての輝きが増し、最後は感動すら覚えました。ラストの詩的な描写はせつなくそして美しいものでした。

2009年7月
容疑者Xの献身 /2005年日本
著者東野圭吾
評価★★★★★★★★★☆
感想 シリーズものであり、映画化も話題になりすぎていたので今更とも思いましたが、評判の良さに負けて購入。これが最高におもしろいもでした。小説として星9点かどうかは別として、このトリックは今まで読んだミステリーもので最も衝撃的なものでした。まだ内容を知らない方、必読です。

2009年6月
重力ピエロ /2003年日本
著者伊坂幸太郎
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 映画化されたベストセラーつながりでこの本を読んでみました。初めのうちは、おもしろい言い回しや斬新な表現の多用が度を過ぎている気がして戸惑いを感じましたが、多くを語らずとも分かり合える兄弟や親子の会話は絶妙でした。とてつもなくかっこいい家族の物語に爽やかな感動を覚えました。

2009年6月
手紙 /2003年日本
著者東野圭吾
評価★★★★★★★★★☆
感想 さすがに映画化されたベストセラーだけあって感銘を受けました。ロシア文学の後だったので、すらすらと読みながらも、いろんなことを考えさせられました。犯罪者とその家族という単純な設定ですが、ベタ過ぎず、ひねり過ぎずの展開が心地よく、久しぶりに一気に読んでしましました。この人気作家の他の作品ももっと読んでみたい。

2009年4月
カラマーゾフの兄弟 /1880年ロシア
著者フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 以前読んだ「罪と罰」がおもしろかったので挑戦した新訳書。とにかく化け物のような作品で、とても人間が書いたものとは思えません。面白いところ、意味不明のところ、身震いするところ、眠くなるところ、哲学的なところ、宗教的なところ。この本に書かれているすべてが計算しつくされ、つじつまが合っているとしたら奇跡的な作品だと思います。世界文学の最高峰かどうかは別として。

2009年1月
なぜ、改革は必ず失敗するのか-自治体の「経営」を診断する /2008年日本
著者木下敏之
評価★★★★★☆☆☆☆☆
感想 1999年に県庁所在都市として最年少の39歳で市長に当選した著者の改革の軌跡をまとめた本。民間人としての感覚からの持論が展開されています。仕事の延長として読んでしまいましたが、それならいっそのこと民間のトップの企業改革の話のほうがかえって参考になるのかもしれません。

2008年8月
華麗なる一族 /1973年日本
著者山崎豊子
評価★★★★★★★★☆☆
感想 最初は昼ドラ風の濃い人間関係に引き気味だったものの、金融界を取り囲む人間模様や、企業人の真髄のようなものにどんどん引き込まれていきました。後味良く読み終えたのが意外なくらい、内容は凄まじいものがありましたが、銀行、官僚、製造業についてとても勉強になりました。

2008年2月
犯人に告ぐ /2004年日本
著者雫井脩介
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 「2004年のミステリーシーンを席巻した警察小説の傑作」というほどではないにしても、十分に楽しめる一冊。記者会見で逆切れする主人公に共感し、感情移入もスムーズでした。警察小説はあんまり読まないのですが、読んでみると結構面白いものが多いような気がします。展開は少し安易な気もしますが・・・。

2008年1月
流星ワゴン /2002年日本
著者重松清
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想 「重松清を読む!」という本屋の単純なキャンペーンに乗せられ、一番評判が良さそうなものを買いました。ハートウォーミングなファンタジーものでしたが、内容が少し単純でちょっと物足りない気持ちで読み終えました。ただ、父親と息子というのが大きなテーマになっていますから、当事者の私にとっていろいろと考えさせられる内容ではありました。

2008年1月
親の品格 /2008年日本
著者坂東眞理子
評価★★★★★☆☆☆☆☆
感想 どうも説教じみた本は苦手です。自分が実践できているとは思いませんが、なるほどと素直に吸収できないのも事実。まず「親」にとってどれくらい「品格」が大切なのかということを考え出して行き詰まってしまいました。ちょうどこの本の栞に「学ぶ気持ちがあれば何でも師である」というような意味の松下幸之助の言葉が印刷されていて、出版社に自分のことを見透かされているような気がしました。

2007年11月
事件 /1977年日本
著者大岡昇平
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想たまたま本屋で手にした本。裁判ものの映画は好きですが、本ではほとんど読んだ記憶がないので興味がわきました。裁判ものというより、裁判の進め方やあり方の論文のような感じで、30年前の裁判というものが何となく理解できました。小説としてはもっとドラマティックであるべきだと思いますが、仕事で法廷を経験した私にとっては大変興味深いものでありました。

2007年11月
砂の女 /1962年日本
著者阿部公房
評価★★★★★★★★☆☆
感想たまたま空港で手にした本。作家の名前すら知りませんでしたが、海外でも評価されている代表作ということで読んでみたくなりました。独特の発想でSFチックな作品も多い作家みたいですが、この本は現実的に想定できる範囲ではあり、妙に感情移入してしまいました。途中の中だるみ(ここが最も文学的で哲学的な部分)を除けばぐいぐい引っ張られました。またいつか別の作品に挑戦します。

2007年10月
海と毒薬 /1958年日本
著者遠藤周作
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想今年の終戦の日前後の新聞に、戦時中の米軍捕虜に対する生体解剖事件の記事がありました。イラスト付きの生々しいものでしたが、その記事でこの本の存在を知りました。事件の概要以外はすべてフィクションだと思いますが、心理描写が妙にリアルですべてが本当の出来事だと錯覚してしまいました。ただ、事件のすべてを知ることができない、あくまでも小説であったことが残念でしたが、逆に読み物としておもしろいところでもありました。

2007年10月
虎を鎖でつなげ /2005年日本
著者落合信彦
評価★★★★★★★☆☆☆
感想この人の本も私は一定の周期で読むようにしています。世界を知るために読むというのがひとつ。もうひとつは自分も何か大きいことができるような錯覚に陥ることができるということ。ちっぽけなことではなく、男は大きいことをやろうぜという気にさせてくれます(気には)。圧倒的な経験に基づく知識に裏打ちされたストーリーは、ただただ「すごい」の一言です。僕の中では飽きることなく一気に読める作家No.1です。

2007年8月
落日燃ゆ /1974年日本
著者城山三郎
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想惜しまれながら亡くなった作家の作品を読んでみる。そんな本の選び方もおかしくはないはず。以前、実家にあった経済人を描いた本を読んだことがありましたが、最も有名な本を手にしてみました。東京裁判。A級戦犯。絞首刑。かなり重い内容でしたが、当時の政府、軍、天皇の関係から太平洋戦争に踏み切ってしまう背景など半分勉強のつもりで読みました。言い分けを言わず、潔さを貫いた男の物語。熱かったです。

2007年3月
博士の愛した数式 /2003年日本
著者小川洋子
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想第1回本屋大賞を受賞したというこの作品もまた、「海辺のカフカ」を読んだ人にお勧めとのこと。斬新な設定と優しいストーリー展開は、穏やかで幸せな気分にさせてくれました。刺激を求めてしまうとちょっと物足りない気もしますが、リラックスして読書を楽しむことができたので、これはこれでいいのでしょう。「あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語」というコピーそのままの一冊。映画もちょっと気になります。

2007年3月
朗読者 /1995年ドイツ
著者ベルンハルト・シュリンク
評価★★★★★★★★☆☆
感想 「海辺のカフカ」を読んだ人にお勧めと紹介されていたこの本をつい購入。出版社の術中にハマった格好ですが、これが大正解。純愛、青春、哲学、戦争、罪、法廷、いろんな楽しみ方ができる1冊です。なかでも先の大戦でのユダヤ人迫害に関わった世代に対して、その子供たちの世代が抱く特殊な感情についての記述は大変興味深いものでした。もちろん、そんな重いテーマだけではなくて、美しいストーリーの読み物としても秀逸です。「その人が望んでいないことであっても、明らかにその人の幸福につながるのであれば、人はそのことをなすべきか」というのもこの本の大きなテーマ。答えもこの本の中にあるのかもしれません。

2007年2月
海辺のカフカ /2002年日本
著者村上春樹
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 「竜馬がゆく」と共に私を読書の世界へと誘ってくれた「ノルウェーの森」に続いての村上ワールド。この手の作品は意味を求めながら読む必要はないのか、心で読むべきものなのか。一気に読んでしまったのは確かですが、物語を楽しめたのか、そもそも物語をどれくらい理解したのか、正直言ってあまりわかりません。
 登場人物のうちナイスキャラのホシノくん風に言えば「俺っちは難しいことはわかんないんだけどさあ、本ってものは、あまり征服してやろうだとか気負って読む必要はないと思うんだ。だってさあ、いくら作家さんが俺っちみたいな落ちこぼれには読ませたくないと思っても、いちいちそれを止めることなんてできないんだよね。だから堂々と読めばいいんだ。理解できなくたっていろんなことイメージしながらさ。そうだろ、ナカタさん。」
 別世界に引き込んでくれる面白い1冊であることは間違いありません。

2007年1月
美しい国へ /2006年日本
著者安倍晋三
評価★★★★★☆☆☆☆☆
感想 この本に関しては評価うんぬんではありませんが、一応つけておきました。時の首相が何を考えているのかくらいは知っておきたかったということです。政策がどうこうではなく、どういう本を読み、どれくらい新聞を読んで、どんな人物から話を聞けばこんなに時事に明るくなるのか(政治家ですので当たり前なのでしょうが)。そんな事に感心した次第です。

2007年1月
生きかた上手 /2001年日本
著者日野原重明
評価★★★★★☆☆☆☆☆
感想 読者の多くが50代という雑誌の連載をまとめたこの本。それはそれは素晴らしい考え方が満載されているのですが、心から実感し、素直に受け入れるには私はちょっとまだ難しい年頃。奥田民生の歌詞「少しくらいは脱ヘルシー、人間だもの」という一節を思い出さずにはいられませんでした。この本を薦めてくれた母の思いは十分にいただいておきます。「いのちとは器そのものではなく、器のなかの水であって、いかにきれいな水を満たすかが大事なんだ」とありました。僕は水よりも器に重きを置いていないかなあと自問。

2006年8月
ワイルド・ソウル /2003年日本
著者垣根涼介
評価★★★★★★★★☆☆
感想 この本を手にとった数週間後に、奇しくも、ドミニカ移民の集団訴訟の判決が出ました。ニュース番組の映像とこの本の描写が完全にシンクロし、強い衝撃を受けました。あまりに残酷で、あまりに悲惨な歴史。黙殺や不作為という罪。いやあ、応えました。戦後の南米移民問題を背景に、国家を相手に立ち上がる男たちの物語。ストーリーも十分おもしろいものだったのですが、この背景の方が最後まで気になってしまいました。次はちょっと軽い内容のものか、文芸作品にしよう。でないと、神経が参ってしまいそう。著者もフラフラになって書き上げた自信作みたいです。

2006年7月
たまゆら /1964年?日本
著者川端康成
評価★★★☆☆☆☆☆☆☆
感想 川端康成の超短編。著者は昭和39年11月に宮崎市内の大淀河畔に2週間余り滞在し、この本を書いたそうです。このことから同地区で掘られた温泉は「たまゆらの湯」と命名されました。このことからずっと気になっていたのですが、読んでみると宮崎のことは何も書いていないんですねえ。大淀川の夕日からイメージされるような繊細で優しげな内容ではあったのですが、如何せん、この短い作品を満足に消化する器量を私が持ち合わせていないのでこの評価。ノーベル賞作家には申し訳ない。

2006年7月
東京タワー(オカンとボクと、時々、オトン) /2005年日本
著者リリー・フランキー
評価★★★★★★★★★☆
感想 泣きすぎて、吐きそうになりました。「泣く=いい作品」とは考えるべきではないのでしょうが、古典作品では味わえない感覚とユーモア、そして親子のドラマに感動しました。この作品で描かれている「オカン」は、自分のモノを何も買わずに、必死で貯めたお金をすべて子供達の為に使うという「オカン」ですが、これは珍しいというよりもむしろ、典型的な昭和の「オカン」ではないかと思います。うちの「オカン」もまさにそんな「オカン」だし、うちのオカンの「オカン」もそれ以上にそんな「オカン」だったと思います。一方、私、平成の「オトン」。欲しいものは買ってるなあ。やりたい事はやってるなあ。それって親としてどうなのかなあ。流れた涙のうち、著者の「オカン」で半分、うちの「オカン」と重なって半分。この場を借りて、うちのオカンとオトンに「ありがとう」。

2006年7月
八甲田山死の彷徨 /1971年日本
著者新田次郎
評価★★★★★★★★☆☆
感想 「八甲田山」、「死の行軍」、「雪中行軍」などというキーワードを耳にしたことはあったのですが、詳細を知らぬまま36年を過ごしてきたことが、今、ただ恥ずかしい限りです。平和ボケした頭を覚醒させるべく定期的に歴史の本を読むようにしていますが、今回もまた「時代」の恐ろしさを痛感させられました。司馬さん好きの私としては、壮絶な歴史の語り手としての著者には若干の物足りなさを感じましたが、読み始めたら止められなかったのも事実(構成が見事)。スケールは天地ほどの差があるものの、ここで描かれている組織の問題点は、現代の会社や役所にも当てはまるものでした。戦略の基礎的考え。「巧遅よりもむしろ拙速を取れ」。これも人生のいろんな部分に当てはまるかもしれません。

2006年6月
功名が辻 /1976年日本
著者司馬遼太郎
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 私の敬愛する司馬さんの旬な本。司馬さんは私に読書と歴史の魅力を教えてくれた恩人であります。戦国時代の話はいくつも読んでいますが、マイナーな大名を描いているので新鮮でした。この山内一豊、性格がどことなく私に似ていて共感が持てました。歴史の大きな大きな節目に必死に生きた武将たち、いやあ、これにロマンを感じなきゃ男じゃないですねえ。まあ、これは奥方が主人公なのですが。司馬さんの作品は長いから、よし、読もうと思い立たないとなかなか手に取ることができませんが、私のベストは「坂の上の雲」全8冊。お暇な方はぜひ。

2006年4月
うちの母ちゃん、手が無っちゃが! /2005年日本
著者山内文代
評価★★★★★☆☆☆☆☆
感想 第16回宮日出版文化賞を受賞したこの作品、障害者を少しでも理解するきっかけになればと読んで見ました。健常者ではわからないこと、気付かないことなどもいろいろ書いてあって、なるほどなあと思うところはいくつかありました。しかし、ちょっと文学的な部分も期待したのですが、その辺りには少し物足りなさを感じました。

2006年3月
続・氷点 /1971年日本
著者三浦綾子
評価★★★★★★☆☆☆☆
感想 ちょっと宗教色が濃くなっていますが、人間性を深くえぐるとでも言いますか、登場人物の感情が丁寧に描かれているのは読みごたえがあります。本の中で出てきた次のふたつの言葉を紹介させてもらいます。
「ほうたいを巻いてやれないのなら、他人の傷にふれてはならない」
「一生を終えてのちに残るものは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものである」
 死後に主眼を置いて生きる必要があるのかはともかく、何かと物欲が前面に出る私には、ズシッと重い真理でした。

2006年2月
氷点 /1965年日本
著者三浦綾子
評価★★★★★★★☆☆☆
感想 記念すべき第一作は、以前実家にあってふと読んだら面白かった「女生徒」という本を書いた三浦綾子の代表作。「私の心は凍えてしまいました。陽子にも、氷点があったのです。」という一節。この一節があって、物語を作っていったのか、作りながらこの一節にたどり着きタイトルにしたのかとても興味がありますが、いずれにしてもタイトルが絶妙で、物語の本質をよく表していることに内容よりも感動しました。初めは昼ドラ風の愛憎劇にちょっとゲンナリしましたが、読みごたえがあったのは確か。さすが当時のベストセラーという感じで、読んでおいて良かったと思っています。間違って、この本よりも先に買ってしまった「続・氷点」を現在、読んでます。